専門実践教育訓練とは、2014年10月(平成26年)から新たに追加された教育訓練制度です。
大きな特徴としては、国家資格が取得できることと、給付金が支給されることです。
指定された専門学校等(3ヶ月~3年コース)に通う場合に、年間で最大56万円支給されます。
2018年1月の改正により更に給付額が増額となりました。
一般的な職業訓練と似たところがありますが異なる制度です。そして専門実践教育訓練はあまり知られていない制度でもあります。ですが、国家資格を取得して就職を希望している場合は魅力的な制度となるでしょう。
ここでは専門実践教育訓練について詳しく説明していきます。
■目次
専門実践教育訓練とは
専門実践教育訓練とは、中長期的なキャリア形成とすぐに就職に活かせる能力の習得を目的として、2014年10月に教育訓練制度に追加されました。主に国家資格等を取得する講座が中心になります。
主な専門実践教育訓練講座の内容
専門実践教育訓練講座は、厚生労働大臣が指定したコースになります。
指定されたコース以外は対象にはならないためその数は限られていますが、その数は年々増加しています。
講座期間は3ヶ月から3年と幅広く選ぶことができます。
そして注目する点は、国家資格を取得できる講座が多いことです。
通常の職業訓練の場合は、取得できる国家資格も限られています。
- 業務独占資格、名称独占資格の取得を訓練目標とする養成施設の課程。
訓練期間は原則1年以上3年以内で対象資格の例としては、看護師、準看護師、保育士、美容師、理容師、栄養士、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、歯科衛生士、はり師、柔道整復師、助産師などがあります。 - 専門学校の職業実践専門課程等
- 専門職大学院
- 職業実践育成プログラム
- 一定レベル以上の情報通信技術に関する資格取得を目標とする課程
- 第四次産業革命スキル習得講座
- 専門職大学・専門職短期大学・専門職学科の課程
現在、どのような講座があるのかは以下のサイトで確認することができます。
◆厚生労働省ホームページ
専門実践教育訓練の指定講座
PDFファイルを開いて頂ければ、都道府県ごとにどのような講座が開催されているのかがわかります。
2021年4月1日時点の給付対象講座数:2,407講座
他制度(職業訓練等)との比較
一般教育訓練や職業訓練と比較してみました。
教育訓練制度は在職者でも受講可能です。
専門実践教育訓練の特徴
専門実践教育訓練は雇用保険の制度です。
そのため一定の条件を満たす雇用保険加入者、または加入していた方が対象となります。
雇用保険とは、以下の要件を見てしている方が対象者になります。
- 週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 同一の事業所に継続して31日以上の雇用が見込めること
そのため、正社員でなくとも、アルバイトやパートでも可能性はあります。
詳しくはこちら「失業保険を受け取るための要件とは 」を参照ください。
専門実践教育訓練の主な特徴としては以下の点が挙げられます。
- 国家資格が取得できる(看護師、介護福祉士、美容師、調理師など)
- 学費の補助(年間最大56万円、3年最大168万円)
- 生活費の補助(失業給付の80%)※ただし45歳未満が対象
例えば、会社を退職して看護師を目指すとします。
その場合、通常であれば看護師の学校を3年間通わなければなりません。
仮に学費が年間90万円だとすると、3年間で270万円の学費がかかるわけです。
更にプラスして日々の生活費が加わります。多くの貯蓄がなければとても通うなどできないでしょう。
しかしこの専門実践教育訓練を利用した場合、驚くほどの大きなメリットがあります。
3年間で600万円の支給も可能
この専門実践教育訓練には、学費の補助としての「専門実践教育訓練給付金」、生活費の補助としての「教育訓練支援給付金」とがあります。
後から詳しくは説明しますが、仮に「年間90万円の看護学校に3年間通った場合」で上記の給付金を受けた場合を計算してみます。
学費の補助として教育訓練経費の50%(年間上限40万円)が支給されるので、3年間では120万円。
さらに関連資格を取得後に就職した場合、プラス20%(年間上限16万円)されるので合計56万円、3年間では168万円となります。
270万円(3年間の学費)に給付金168万円を差し引けば、自己負担額は102万円です。
次に生活費として失業給付の80%の支給を受けることができます。(注意:45歳未満が対象)
仮に30歳で退職し、その時の給与が月額30万円の場合は失業給付は月額およそ17万8千円です。
17万8千円の80%ですから、毎月の支給額は14万2千円。
14万2千円が3年間続いた場合、トータルでは約511万になります。
学費と生活費を合わせると679万円となり、その際の自己負担額は学費分の102万円のみです。
もちろん誰でもこの制度を利用できるわけではありません。
対象となる学校も限りますし、雇用保険の一定の条件を満たした方が対象です。
一番大切なことは、自身が専門実践教育訓練の対象者であるかどうか、受講したい学校講座が専門実践教育訓練制度の厚生労働大臣の指定を受けているかです。
・自分が専門実践教育訓練(給付金)の対象者であるのか
・受講希望の講座が専門実践教育訓練制度の指定を受けているか
自分が専門実践教育訓練の支給対象者であるかは、ハローワークに確認(支給要件照会)すればわかります。必ず事前に確認しましょう。
専門実践教育訓練給付金とは
専門実践教育訓練給付金とは、学費補助のことで、かかった費用の年間50%(上限40万円)を給付する制度です。さらに関連資格を取得し就職すれば、追加で20%(年間上限16万円)の支給を受けることができます。
その要件は以下の通りです。
加入期間3年以上(当面は2年以上)
支給要件期間は、雇用保険加入期間が3年以上ある方が対象です。ですが、初めて教育訓練給付の支給を受ける場合、当面の間は2年以上加入していれば対象となります。
※以下の場合、3年以上の雇用保険加入期間(在籍期間)があるので、対象です。
※以下の場合、それぞれ雇用保険加入期間(在籍期間)が短くても合算して3年以上(初めての場合は2年以上)あれば対象となります。異なる会社でも合算可能です。
離職日より受講開始日が1年以内
専門実践教育訓練は在職者でも退職者でも受講することができます。
ただし、気をつけなければならないことは、会社を退職して受講する場合は、離職日の翌日以降、受講開始日までが1年以内である必要があります。
※出産育児等で教育訓練の延長手続きをしていた場合は最大20年以内
※受講開始日とは開校日のこと(通信制の場合は教材などの発送日)
その他注意点
過去に教育訓練給付金を受給したことがある場合、その時の受講開始日より前の期間は通算対象にはなりません。このため、過去の受講開始日以降の支給要件期間が3年以上経たないと新たな資格が得られないことになります。
受講開始日前に訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受けなければ「専門実践教育訓練給付金」は受けられません。
ただし在職者の場合、受講開始日前に勤務先の事業主から専門実践教育訓練を受講することを承認しこれを証明した場合は受けなくても構いません。
支給額
専門実践教育訓練給付金の支給率は教育訓練経費の50%(上限年間40万円)です。
また、専門実践教育訓練の終了後、関連資格を取得し、かつ修了した日の翌日から1年以内に就職した場合はさらに20%プラス(年間上限16万円)されます。(計70%:上限年額56万円)
たとえば3年間の学校に通う場合、最高で上限額の56万円の3年間、168万円の支給を受けることができます。
※2017年(平成29年)12月31日以前に受講開始した場合の支給額はそれぞれ40%と60%になる。
※4千円を超えない場合は支給されません。
※関連資格が存在しない場合はこの条件は不要
再度専門実践教育訓練を受けようとした場合、10年を経過するまでは上限額168万円となります。例えば、最初に受講してから5年後に再度受講しても先に168万円受け取っているならば、1円も受け取れないことになります。
教育訓練経費とは
教育訓練経費とはどのようなものが含まれるのでしょうか?
教育訓練実施者に支払った入学料、受講料の合計です。
検定試験の受験料、受講のための交通費、パソコン購入などは含まれません。
この教育訓練経費に対して50%の給付率が適用されます。
教育訓練給付金の支給申請手続き
教育訓練給付金の手続きは原則、住所管轄のハローワークにて行います。
■受講開始日の1か月前までにハローワークにて行うもの
- 訓練対応キャリアコンサルティングを受けジョブ・カードを作成
- 「教育訓練給付金」及び「教育訓練支援給付金受給資格確認票」とジョブカードをハローワークへ提出
■訓練対応キャリアコンサルティングとは
ハローワーク等に常駐している訓練担当のキャリアコンサルタントと面談してジョブ・カードを作成することです。
ジョブ・カードとは国が定めたフォーマットで、今後のキャリアプラン等をまとめたものです。履歴書や職務経歴書に近いものと言えるでしょう。今までの仕事経験、持っている資格、そして今後の目標などをキャリアコンサルタントと面談しながら複数枚の紙にまとめていくものです。
このキャリアコンサルティングは、1回の面談で終わることもあれば、2,3回行われることもあります。ジョブ・カードを作成しないと専門実践教育訓練を受けることができません。
受講前の提出書類
受講前にハローワークへ提出する書類です。
- 「教育訓練給付金」及び「教育訓練支援給付金受給資格確認票」
- ジョブカード
- 本人・住所確認書類(運転免許証、住民基本台帳カード、マイナンバーカードなど)
- マイナンバーカード、通知カード、マイナンバーの記載のある住民票の写しのいずれか
- 雇用保険被保険者証(雇用保険受給資格者証でも可)
- 写真2枚
- 銀行の通帳またはキャッシュカード(支払い先)
受講中の提出書類
受講中、受講後にハローワークへ提出する書類です。
- 教育訓練給付金の受給資格者証(受講開始前の手続きでハローワークより渡されるもの)
- 教育訓練給付金支給申請書
- 受講証明書または専門実践教育訓練修了証明書(教育訓練実施者より渡されるもの)
- 領収書(受講者本人が支払った教育訓練経費)クレジットカードなどによる支払いの場合はクレジット契約証明書(または必要事項が付与されたクレジット伝票)
- 教育訓練経費等確認書
- 資格取得等したことにより支給申請する場合は、資格取得等を証明する書類
支給申請時期
専門実践教育訓練給付金を受けるには、受講開始日から6か月ごとに申請手続きを行う必要があります。
この6か月(支給単位期間)の末日の翌日から起算して1ヵ月が支給申請期間となります。たとえば4月1日に受講開始した場合、10月1日から10月31日までが支給申請期間です。また訓練修了後は終了日の翌日から1ヵ月が支給対象期間です。3月31に修了した場合、4月1日から1ヵ月間。
受講終了後に資格取得かつ受講終了後1年以内に就職した場合に追加される追加給付を受けるには、就職した日の翌日より1ヵ月以内に手続きが必要です。認定後、およそ2週間で口座に振り込まれます。
教育訓練支援給付金とは
この教育訓練支援給付金とは、失業保険の支給が終わった後でも、「生活に困らないように失業保険の80%の額を支給しましょう」という制度です。そのため失業保険の後に受け取れる給付金です。
※ただし45歳未満でないと対象にはなりません。
※在職者も対象にはなりません。
必要な要件は以下の通りです。すべての要件に当てはまれば支給対象となります。
- 失業状態にある場合に、訓練受講をさらに支援するための給付金
- 専門実践教育訓練を修了する見込みがあること
- 受講開始時に45歳未満であること
- 受講する専門実践教育訓練が通信制、夜間制でないこと
- 受講資格確認時に、雇用保険に加入していないこと
- 会社などの役員に就任していないこと(活動や報酬がない場合はハローワークで要確認)
- 自治体の長に就任していないこと
- 今回の受講するにあたり、既に教育訓練支援給付金を受けたことがないこと
- 教育訓練給付金を受けたことがないこと(平成26年10月1日前に受けたことがある場合は例外あり)
- 専門実践教育訓練の受講開始日が2022年3月31日以前であること
1日当たりの支給額
原則として離職される直前の6か月間に支払われた賃金額から算出された基本手当日額の80%です。
(基本手当日額とは、過去6か月の賃金を180で割った額のおよそ45%~80%)
■支給例(離職前の平均月額給与が30万円の場合)
離職前の平均月収が30万円の場合は、1日当たりの失業給付額はおよそ5900円です。
その5900円に対して80%なので、1日の支給額はおよそ4700円となります。
※2017年(平成29年)12月31日以前に受講開始した場合は基本手当日額の50%になります。
給付金の受け取り期間
教育訓練が修了するまで給付を受けることができます。
3年制の専門学校の場合は3年間受給可能です。
もちろんですが、失業給付期間は支給されません。終了後に支給開始となります。
また、仮に失業給付の受給資格があるにも関わらず失業給付の手続きをしなかった場合でも、受給資格がある離職から1年間の間は教育訓練支援給付金は支給されないことになります。
支給を受けたい場合は、離職後に離職票が届き次第、速やかに手続きを行いましょう。
この教育訓練支援給付金は、原則欠席した日は支給されません。
また欠席が多く、ある2ヶ月の出席率が8割に満たなかった場合、それ以降は一切教育訓練支援給付金は支給されなくなります。
上記内容のように、金額が大きい分支給要件も大変厳しくなっています。
そのため1日も休まない気持ちで訓練に臨む必要があります。
教育訓練支援給付金の支給申請手続き
受講開始日の1ヵ月前までに「教育訓練給付金」及び「教育訓練支援給付金受給資格確認票」をハローワークへ提出します。
教育訓練支援給付金は教育訓練給付金を受給できる方でなければ給付を受けられません。
提出書類
提出書類は以下の通り。
- 教育訓練給付金及び教育訓練支援給付受給資格確認票(ハローワーク等で配布)
- 離職票(既に失業保険の手続き中で雇用保険受給資格者証があればそれでも可)
- 本人確認書類(運転免許証、住民基本台帳(写真付き))
受講中の提出書類
教育訓練支援給付金を受けるには、原則として2か月に1回「教育訓練緯線給付金の認定日」にハローワークに申請します。
- 教育訓練支援給付金の受給資格者証(教育訓練給付金及び教育訓練支援給付受給資格者証)※受講前にハローワークより交付
- 教育訓練支援給付金受講証明書(訓練実施者より配布)
- 基本手当の受給決定をしている場合、雇用保険受給資格者証
専門実践教育訓練Q&A
専門実践教育訓練についてのQ&Aです。
随時更新していきます。
どうやって対象の教育訓練講座を調べることができるのか
厚生労働省の専用ページや、各専門学校等のホームページにて確認します。
◆厚生労働省ホームページ
専門実践教育訓練の指定講座
専門実践教育訓練給付金の支給要件を満たしているか確認するには
ハローワークに照会することで確認することができます。
ハローワーク、教育訓練施設で配布する「教育訓練給付金支給要件照会票」用紙に必要事項を記入します。
住所管轄のハローワークへ本人来所、代理人、郵送のいずれかの方法によって照会可能です。
その際、本人・住所の確認できる書類(運転免許証、住民票のコピー、雇用保険受給資格者証、国民健康保険被保険者証、など(コピー可)代理人の場合は委任状が必要です。
電話による照会は個人情報保護やトラブルのもとになるため行うことができません。
3月末で自己都合退職し、4月より学校に通う場合、給付金はどのように支給されますか?
まずは3つの給付金があります。
・専門実践教育訓練給付金(6か月ごと)
・専門実践教育訓練支援給付金(2か月ごと)※45歳未満が対象
・失業給付の基本手当
これらを受け取ることができますが、まずは支援給付金と失業給付は同時には受け取れません。
まずは失業給付を受け、それが終了した後に支援給付金を受け取ることができます。
仮に45歳未満で失業保険90日(自己都合退職で3か月の給付制限)がある場合、実際には以下のような受け取り方になります。
■(例)専門実践教育訓練給付金について
まず、半年間ごとに支給されるため、3年間通う場合、
第1期 1年生の4~9月分の受講料+入学金を10月中に申請
第2期 1年生の10~3月分の受講料分を4月中に申請(以下繰り返し)
第3期 2年生前半
第4期 2年生後半
第5期 3年生前半
第6期 3年生後半
■(例)専門実践教育訓練支援給付金について
・4月○日講座開始
・4月中旬に失業保給付手続き(3末退職の場合)
・7日間の待期期間
・3か月の給付制限期間(自己都合退職のため)
・90日間の失業給付の支給
・その後2か月ごとに教育訓練支援給付金を申請し支給を受ける