厚生労働省が歴史的な不祥事を起こしました。
失業保険の額を決めるため等に使用されるデータに、意図的な誤りがあることが厚生労働省より発表されたのです。平成30年12月に総務省の指摘で発覚しました。
このデータとは「毎月統計勤労調査」です。
このことにより、本来受け取れるはずの 失業保険額が少なくなっていました。
この不祥事は2004年以降が対象です。
対象期間:2004年以降~
対象者:延べ2015万人(発表時より増加)
追加給付額:約800億円
過小金額は平均1400円とありますが、給付金額が高く給付期間が長い人については1万円以上の可能性もあります。
延べ人数で2015万人に影響が出ています。
今後は過小受給者に対して追加給付を行う予定です。
この内容についての詳細と今後の対応についてわかりやすく説明していきます。
今回の事象について
失業保険(正確には雇用保険の失業等給付)の基となるデータは毎月行われている「毎月統計勤労調査」です。毎月統計勤労調査とは、労働者の賃金の動向を調べるため全国の事業所の給料を毎月調べることです。
- 500人未満の事業所は一部抽出
- 500人以上の事業所は全数調査
問題があったのは「東京都」のデータです。
- 500人以上の事業所について3分の1しか調査していなかった。(1464事業所に対し491事業所のみ)
- 500人未満の事業所については平成21年から平成29年末まで、一部抽出の計算に誤りがあり。
ここで大きな問題なのはデータの補正を行っていないことです。
3分の1しか調査していなければ、(視聴率調査のように)3倍をかけて補正をしていれば誤差で済んだかもしれません。ですが、その補正すらしていなかったため金額が低めに算出されました。(乖離幅0.6%)
全数調査なのに一部しか調査していない。さらにデータの補正もしていない。
この金額が低く算出してしまったため、失業保険の額も低く抑えられました。
内容がわかりずらいため、数字を元に説明していきます。
計算例 ※実際の数字ではありません
500人以上の事業所の従業員数を平均1000人、月額給与を平均25万円と過程する。
491事業所の全員分の給与を合算すると、1227億円。(491*1000*250000)
これを1464事業所に対して1227億円としてしまう(本来は3660億円)。
そうすると一人当たりの月額給与は83,800円にしかなりません。
146万人の月額給与が83,800円として算出されたことになります。
これによって、賃金が低めに算出されていました。
全国のデータで計算するので、そこまで極端には変わりませんが、若干の乖離が出ています。
(乖離幅0.6%)
今データは雇用保険や労災保険の給付額にも算定する際に使用されるデータです。
※500人未満の一部抽出データにも誤りがあったようですが、詳細は不明です。
厚生労働省、今後の対応(追加給付など)
雇用保険などで過小給付だった人にさかのぼって追加給付する方針です。
追加給付の対象となる人
【雇用保険関連】
- 基本手当(失業給付)
- 再就職手当
- 高年齢雇用継続給付
- 育児休業給付など
【労災保険関連】
- 傷病(補償)年金
- 障害(補償)年金
- 遺族(補償)年金
- 休業(補償)給付
追加給付の概要
2019年(平成31年)1月11日に公表した再集計値を用いて実施。
<追加給付額>
【雇用保険】
- 一人あたり平均1400円。延べ約1900万人、給付額約280億円
【労災保険】
- 年金給付:一人当たり平均約9万円、延べ約27万人、給付費約240億円
- 休業保障:一人一ヶ月当たり平均300円、延べ約45万円、給付費約1.5億円
支払い方法
2004年(平成16年)よりさかのぼって対応。
- 住所データが残っている場合はシステム改修等の準備が整い次第、手紙にて連絡。
- 住所データが残っていない受給者(延べ1000万人以上)及び転居等で住所不明となった方については、本人からの申し出が必要。本人確認後に給付額の計算を行い追加給付を行う
なお、対象者の特定、追加給付額の計算、システム改修等に相当の期間が必要
相談窓口
2019年(平成31年)1月11日(金)以降、以下の窓口にて相談を受け付けています。
★雇用保険追加給付問い合わせ専用ダイヤル 0120-952-807
★労災保険追加給付問い合わせ専用ダイヤル 0120-952-824
【出典】毎月勤労統計調査に係る雇用保険、労災保険等の追加給付について
さいごに
今回の報道について、正直「またか!」という諦めに近い溜息しかでませんでした。
既に食傷気味です。
2004年から2019年の今まで、担当者が変わってもずっと続いていたことになります。
明らかに東京都のデータがおかしいことを、担当者レベルでは気がついていたはずです。
以下、発表された内容の抜粋。(復元というのは補正のこと)
また抽出調査をしていたにもかかわらず必要な復元を平成30年1月以降の調査分しか行っていなかったことは、一部の職員は総務省から指摘を受ける前に認識していましたが、これらを組織全体で共有してはいませんでした。
発表された内容には「毎月勤労統計調査に係る関係職員への聴取等を引き続き行う」とありますが、期待すらできません。国のあらゆる機関で不正が発覚しており、これらは氷山の一角に過ぎないのではないでしょうか。
民間企業が同じような改ざんをしていればメディアに大きく叩かれます。
当然、第三者委員会を設置し、原因究明し再発防止をはかります。
しかし国はこのようなこと(第三者機関)を行いません。責任の所在を曖昧にし、後は事後処理のみ。
メディアも上辺だけで真相を探るところまでは行いません。
今回の件で、再調査費、再計算費、追加給付費、システム改修費などで一体どれだけの税金がかかるのでしょうか。その税金の負担は誰がしているのでしょうか。
そして今回の追加給は本人の申し出がない限り支給は行なわれません。
労災を受けていた方は要注意です(平均約9万円)。
手紙が届けば申請することは容易かと思いますが、自ら問い合わせをして申請してという人がどれだけいるのでしょうか。
統計データは日本経済全体を正しく映す鏡です。
あらゆるデータで不正が出てくれば、今後は国の存在を脅かす大問題に発展していくでしょう。
【追記】
本日1月22日に処分が発表されました。
特別観察委員会のヒアリング結果として「組織的な隠蔽とは認定できない」」と結論づけました。
また当時通知された事務取扱要領の中で「規模500人以上の事業所は東京に集中しているため、全数調査しなくても精度が確保できるためである」と記載されていたことを明らかにしました。
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【処分内容】
- 事務次官と審議官を訓告処分
- 元職員を含めた関係職員20名を減給(10分の1)
※訓告とは法律上の処罰とならない軽い実務上の処分の一つ。口頭又は文書で注意すること。
政務三役も給与など自主返納予定。
今後厚生労働省としてどのような再発防止策を検討するのか気になります。