仕事を辞めたらすぐに失業保険を申請した方が良いのでしょうか?
少し待ってください。場合によっては申請しない方がよいこともあります。
ここでは失業保険を申請した場合の「メリット」や「デメリット」をわかりやすく説明していきます。また自己都合で退職した場合のデメリットも紹介します。
失業保険とはその名の通り、「失業した際に受け取れる保険」のことです。(正式な名称は失業等給付の基本手当と言います。)
雇用保険に1年以上(会社都合退職の場合は6ヶ月以上)加入していれば、パートでもアルバイトでも失業保険の給付を受けることができます。
失業保険に必要な書類や手続きについては以下を参考にしてください。
◆(図解でわかる)失業保険手続きから受け取りまでの流れ
それでは失業保険を受けることでのメリットとデメリットを説明していきます。
失業保険を受けることのメリット
主な失業保険のメリットは以下のような内容です。
- 働かなくてもお金が手に入る
- 仕事が早く決まっても再就職手当を受けることができる
- 再就職先で1年働けば、また失業保険を受け取ることができる
- 職業訓練を無料で通うことができる
以下で詳しく説明していきます。
働かなくてもお金が手に入る
当たり前ですが失業保険の最大のメリットはここです。働かなくてもお金が手に入ること。
また失業保険には税金がかかりませんので、確定申告も不要です。
毎月一定額の収入があることは大きなメリットです。
失業保険の額は退職前6ヵ月の平均給与で決まります。人によっては多い少ないがあるでしょう。
■例えば月給(手取りではなく額面)が以下の場合の失業保険支給例です。
※諸手当、交通費・残業代を含みます。(ボーナスは除く)
(例1)月10万円(20歳)⇒およそ月8万円の支給
(例2)月30万円(33歳)⇒およそ月17万円の支給
(例3)月100万円(55歳)⇒およそ月25万円の支給
※およそ離職前給与の5割~8割(上限、下限あり)
それぞれ上限下限があります。たとえ月給100万円の人であっても上限は25万円程度です。
■実際の金額が知りたい方は以下のツールをご利用ください。
・失業保険の金額を計算(自動計算ツール)
失業保険は最低でも90日(およそ3ヶ月)は受け取ることができます。
その間に心身ともに体調を整えて就職活動に専念することができます。
仕事が早く決まっても再就職手当を受けることができる
失業保険の手続きをした後、すぐに就職が決まった場合はどうなるのでしょうか?
もらえないのであれば何だか損した気分になります。
ですが早期に就職が決まったとしても決して無駄にはなりません。失業保険の代わりとして「再就職手当」を受け取るとることができるからです。最大で70%の額を一括で受け取ることが可能です。
再就職手当とは、まだ失業保険が残っている状況で早期に就職する場合に支給される手当のこと。
ただしいくつかの条件があります。
就職予定日までに全体の3分の2以上残っていればその70%。3分の1以上残っていればその60%が支給されます。(2017年1月改正)
<詳細>
・再就職手当とは【支給条件から支給額・手続きまで図で解説】
■(例)1日の基本手当額5000円、給付日数180日の方が、就職予定日前日でまだ90日残っていた場合。
(すでに90日分(5000円×90日)は受け取っています。)
残り3分の2以上で70%、3分の1以上で60%を一括で受け取ることができます。
上記例の場合、3分の2以上はありませんが、3分の1以上(90日/180日)は残っています。
その場合、残り日数分の60%を受け取ることができるので、「90日分×60%×5000円=27万円」。
再就職手当として27万円を一括で受け取ることができます。
3分の1以下の残日数の場合は受け取ることができませんが、再就職先で再度離職した場合は再び残りの日数分を受け取ることは可能です。
再就職先で1年働けば、また失業保険を受け取ることができる
失業保険は何度でも受け取ることができます。
失業保険を受け取る条件として「過去2年間の間に12ヶ月以上の雇用保険加入期間」があれば、再度受け取ることができます。
12ヶ月以上という条件があるので、極端な例で言えば、以下のことも可能です。
「1年間働いて失業保険を受取る。また1年間働いて失業保険を受け取る。(これの繰り返し)」
さらに会社が倒産したり、雇い止めやリストラ等で退職した場合、1年ではなく6ヶ月の加入期間があれば失業保険を受け取ることができます。
一度失業保険を受けたらそこで終わりという制度ではないのです。
職業訓練を無料で通うことができる
職業訓練とは、新しい分野にチャレンジしたり、資格取得を目指すために通う学校のことです。
現在は職業訓練のことを「ハロートレーニング」とも呼ばれています。
2ヶ月から最長2年のコースがあり、ほとんどが無料、1年以上のコースでもわずかなお金を支払うことで通うことができます。
さらに一定の要件(受講指示)を満たしていれば、職業訓練終了まで失業保険を延長して受け取ることもできますし、失業保険を受けられない方も一定の要件(支援支持)を満たすことで月10万円を受けながら通うこともできます。
職業訓練の詳細については「知らないと損をする 職業訓練 のすべて 」 を参考にしてください。
制度説明からコース案内、申込手続きまでわかりやすく書かれています。
職業訓練に通うことは、新しい分野にチャレンジしたり、資格取得や苦手なことを克服することができる大きなチャンスとなります。
新しいことが学べ、何よりも失業保険が延長されるのが大きな魅力です。
失業保険を受けることのデメリット
失業保険を受けることはメリットだけではありません。当然デメリットもあります。
- 一度失業保険の手続きをしたら加入期間がリセットされる
- 無職期間が長ければ就職に不利になる
- 生活リズムが崩れてしまう
- すぐに働いた方が給与も多く、仕事経験を積むことができる
以下で詳しく説明していきます。
一度失業保険の手続きをしたら加入期間がリセットされる
失業保険の手続きをしたら今までの雇用保険加入期間がゼロになり、リセットされます。
雇用保険の加入期間が長ければ長いほど多くの失業保険を受け取ることができます。
特に会社都合で退職する場合は大きく変わってきます。
■以下の図が加入期間がリセットされるイメージです。
手続きをしたら再就職後は0からのスタート。手続きしない場合は11年目から継続してスタートすることができます。(ただし離職後1年未満で再就職する必要があります。1年を超えた時点でリセットされます。)
加入期間を伸ばして失業保険を多くもらうために、「あえて手続きをしない」という選択肢もありということです。もちろんすぐに就職できる見通しがあればです。
(例)35歳で勤続年数(雇用保険加入年数)1年の場合と、20年の場合の違いは以下の通り。
自己都合 | 会社都合 | |
---|---|---|
1年 | 90日 | 150日 |
20年 | 150日 | 270日 |
1度リセットしても、再度1年間雇用保険に加入すれば受給資格は得られるため、そこは考え方しだいでしょう。
無職期間が長ければ就職に不利になる
失業保険を受けている間は当然無職です。無職期間が長くなればなるほど就職活動には不利になります。ブランクが長い人を採用側はどう見るのか? 考えてみたらわかります。
なるべくブランク期間はつくらないほうが良いのです。
失業保険を手続きすると安心してしばらく動かない人が多いのが事実です。当面の収入確保は出来ますから。
自己都合退職の場合はそうではないかもしれません(後述します)。
しかし3ヶ月ブランク期間があるとその後の就職率は低下するというデータがハローワークにはあります。就職を決めるには離職後3ヶ月以内が良いということです。
それだけではありません。ブランク期間が長くなれば長くなるほど妥協しなければならなくなります。
最初は選り好みしていたものが次第に失業保険も終わりに近づくと、もう働ければどこでも良いという考え方になりがちです。
そのような考えで就職先を決めてしまうと、再度離職の可能性が高まってきます。
退職後は、失業保険には頼らず早めに就職するという決意も必要なのかもしれません。
生活リズムが崩れてしまう
無職期間が長くなるとどうしても生活リズムが崩れてきます。失業保険の手続きをしたら多くの人が当分はゆっくりしようと考えます。人間は本来怠け者。そのことを忘れてはいけません。
会社勤めの際は「強制的に時間管理」されていたため規則正い生活が出来ていました。
ですがそれが無くなるとどうなるでしょう。
最初は張り切って就職活動するかもしれませんし、朝早く起きてジョギングするかもしれません。
ですがそれが続くのは最初だけ。次第に夜型になって、朝方寝て昼過ぎに起きる生活へと変わっていくのです。
そうなるとそれが習慣化され規則正しい生活リズムが作りづらくなってしまいます。
人の身体には体内時計があり、規則正しい生活をすることでそれを保つことができます。
規則正しい生活ができないと身体の維持管理が十分にできなくなり、そうなると必要な栄養素も吸収しずらくなります。それが元でやる気がでなくなったり病気になったりもしてしまうのです。
「やる気」という活力が湧かないと就職活動すらまともにできるわけがありません。
「焦り」で行動しても決して良い結果は生まれません。
規則正しく生活することが就職活動をする上でとても大切なことなのです。
すぐに働いた方が給与も多く、仕事経験を積むことができる
失業保険の支給額は決して高くはありません。
退職前のおよそ5割~8割です。以下のように年齢によって上限・下限額も決まっています。
■2019年3月改正版
年齢 | 最低額(1日) | 最高額(1日) |
---|---|---|
29歳以下 | 1,984円 | 6,755円 |
30歳以上45歳未満 | 1,984円 | 7,505円 |
45歳以上60歳未満 | 1,984円 | 8,260円 |
60歳以上65歳未満 | 1,984円 | 7,087円 |
※65歳以上の方は「高年齢求職者給付金 」となり30日もしくは50日の一時金での支給になります。
※変更は毎年8月1日に行われます。
せっかく失業保険をもらえるのなら働かずに支給を受けた方が得だと考える人も多いでしょう。
ですが、そこには多くのデメリットがあることを知らなければなりません。
前述したように失業保険は前職給与の5割~8割しか受け取ることができません。
であれば、すぐに就職して働いた方がより多くの収入を得ることができます。
収入だけではありません。
早く働くことによって、その分の「仕事経験を得る」こともできます。
若い方は特にそうですが、実務経験を多く積み上げることが今後仕事をする上でとても大切な要素となります。学歴や資格などより、多くの実務経験です。
自己都合退職(2ヶ月の給付制限あり)の場合のデメリット
自己都合退職の場合でも、すぐに失業保険が出る場合と出ない場合があります。
ここは注意しなければなりません。
自身の健康状態による退職や育児介護などの特定の理由がある場合はすぐに支給されますが、それ以外の自己都合退職の場合は2ヶ月3ヶ月間の給付制限がつきます。
※2020年(令和2年)10月1日より、正当な理由がない自己都合により退職した場合であっても、5年間のうち2回までは給付制限期間が3ヶ月から2ヶ月へと短縮されました。
※自分がどちらか迷う場合は事前にハローワークへ相談してみましょう。電話でも構いません。
ここでは2ヶ月の給付制限が付く場合のデメリットを見ていきます。
2ヶ月の給付制限期間がある
自己都合退職の場合で特別な理由がない場合は、2ヶ月の給付制限期間があります。
手続きしてもすぐには支給されないのです。
実際に手続きしてからお金が振り込まれるまでは約3ヶ月もかかります。
もちろんこの給付制限中にアルバイトしても良いのですが、その分本来やらなければならない就職活動がおろそかになります。
2ヶ月(実際は振込まで3ヶ月)待つのであれば、手続きせずに再就職した方が賢明かもしれません。
もらえる金額が少ない
自己都合退職の場合、会社都合退職に比べて給付日数が大幅に減ります。
例えば35歳の方が10年勤めていた会社を退職したとします。
会社都合なら10年だと240日になるのに対し、自己都合なら120日です。
年齢に関係なく10年未満だと90日です。
■会社都合退職者
被保険者であった期間 | 6ヶ月以上1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
■自己都合退職(特定受給資格者、特定理由離職者1、就職困難者以外)
被保険者であった期間 | 6ヶ月以上1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|---|---|
全年齢 | - | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
再就職手当が出ない場合がある
再就職手当の条件として、給付制限期間の最初の1ヶ月に限り、「ハローワーク又は職業紹介事業者」の紹介でないと再就職手当を受けることができません。
ここは要注意です。あくまでハローワークでの紹介か、職業紹介事業者(転職エージェント等)の紹介でないと受け取れません。
例えば失業保険の手続きを行なった後に求人雑誌で応募してそこに就職が決まったとします。
ですが給付制限期間1ヶ月目であれば、再就職手当が受け取れません。最初の1ヶ月目に限りです。
もし「すぐにでも来てほしい」と依頼があった場合、上記のことを考えて就職日をずらすように相談する必要が出てくるかもしれません。2か月目に入れば再就職手当を受け取ることができます。
その場合の再就職手当の額は失業保険の7割。それを一括で受け取ることができます。
<参考>
・再就職手当とは【支給条件から支給額・手続きまで図で解説】
国民健康保険の軽減措置を受けられない
働いていた時には天引きされていた健康保険や年金。退職後は自分自身で直接支払わなければなりません。
多くの市区町村では失業者に対して国民健康保険の軽減措置を行なっています。
ですが2ヶ月給付制限のある自己都合者の場合は対象になりません。
国民健康保険は前年度の収入によって金額が変わってきます。前年の収入が多いとその分支払額も増えてきます。
会社都合退職の場合は軽減措置がありますが、給付制限のある自己都合退職の場合はないところがほとんどです。
これに国民年金が加わると大変な負担になります。
国民年金の場合は「国民年金保険料免除制度」があります。
給付制限がある自己都合対象の場合でもこれに該当します。(ただし世帯収入要件があり)
詳しくは 国民年金を払えない場合は『国民年金保険料免除制度』を利用しましょう にわかりやすく書かれています。
まとめ
それぞれメリットデメリットを書いてきましたが、結論から言えば、会社都合で退職した場合は直ぐに失業保険の手続きをした方が良いと言えます。
すぐに支給を受けることができますし、最低でも90日以上の失業保険を受けることが出来るからです。
受給期間中に就職が決まっても、3分の1以上の給付日数を残していれば「再就職手当」を受けることもできます。
更に新しい就職先で1年以上雇用保険に加入すれば、再度離職しても新たに失業保険を申請することができます。1年以上加入することで受給要件を満たせるからです。(会社都合退職の場合は6ヶ月)
考えたいのが自己都合で退職する場合。特に2ヶ月の給付制限が付く場合は迷うところ。
自己都合退職の場合、手続きしてから実際に銀行口座に振込まれるまで約3ヶ月かかります。
※自身の病気等でやむを得ず退職する場合、失業保険はすぐに支給されます(約1ヶ月後)
※配偶者がいる場合、給付制限期間のみ扶養に入るという選択肢もあります
しかも会社都合退職と比べて給付期間も短い。上記表のように、会社都合では240日間なのに、自己都合では90日しか受け取れないということもありえます。年齢が高く、雇用保険の加入期間が長い人程損をします。
「2ヶ月の給付制限が付いた場合は失業保険を申請せずに再就職する」。
そして将来、会社都合退職の場合に手続きをするという考え方も有りかもしれません。
最終的にはその人の置かれている立場によって各々変わってきます。
後悔しないように事前に情報を整理する必要があるでしょう。